■耕畜が連携し地域の資源をフル活用

会場の様子 |
パルシステム連合会では産直産地と連携し、遊休農地を活用した飼料用作物の栽培や、畜産で発生する副産物をたい肥化して再利用するなど、同一地域内での耕作と畜産が互いの資源を活用しあう耕畜連携に取り組んでいます。
飼肥料の多くを輸入に頼っている国内の現状があるなか、畜産生産で発生するふん尿をたい肥化し、そのたい肥で人間や家畜が食べる青果や米を生産することで、地域内で循環し自給できる農業をめざします。
パルシステムの産直産地では現在、地域ごとに耕畜連携会議を立ち上げ、耕作生産者、畜産生産者、飼料会社などが参加して資源循環型農業へ向けた検討を進めています。2月26日(土)に開かれた全体会では、全国の産直産地から耕畜連携に取り組む関係者など60名が参加しました。
■厳しさを増す世界の食糧事情
会議ではまず、農林水産省生産局から小宮英稔畜産振興か課長補佐、全国農業協同組合連合会(JA全農)から生産部穀物課の由井琢也さんを招き、飼料を取り巻く環境と今後の自給飼料の展望などについて学びました。
飼料、穀物をめぐる近年の世界的な状況は(1)各国の規制緩和などによる市場への投機資金の流入(2)新興国の成長やエネルギー資源としての新規需要拡大(3)異常気象による収穫被害とそれにともなう生産国の輸出規制――などにより、価格は上昇傾向にあります。今後も需要が減少する見込みはなく、燃料や肥料の高騰で栽培コストが上昇することでさらに価格が上昇する可能性があるとのことでした。
政府では、2020年に食料自給率(カロリーベース)50%を目標とした「食料・農業・農村基本計画」に基づき、水田を活用した飼料用稲の生産と利用を促進する政策を打ち出しています。遊休農地の活用や二毛作、技術開発を支援することで、2008年度26%となっている飼料の自給率を2020年までに38%までに引き上げたい考えです。
参加者はそれぞれの説明に理解を示しながら「もみ殻や稲わらを活用できる支援制度はありませんか」「行政への手続きが煩雑でコストがかかります」などの要望や課題を挙げていました。
■各地の事例を学び意見交換しました
各産地からの実践報告では、鶏肉、鶏卵、豚肉、牛肉、牛乳といった幅広い取り組みが紹介されました。発表内容の概要は以下の通りです。
○岩手県(「までっこのこめ鶏」など。十文字チキンカンパニー、JA新いわて、全農岩手県本部、軽米町)
「2010年は128haの飼料米を作付し、2011年は160ha以上となる予定です。『までっこのこめ鶏』は9万羽、25tを生産しました。トウモロコシを給餌した場合と生産性は変わりませんでした」
○秋田県(「日本のこめ豚」など。ポークランドグループ、JAかづの、全農秋田県本部)
「ポークランドグループでは、2010年度83haに作付し1万8千頭の『日本のこめ豚』を生産しました。2011年度は120ha、3万頭まで拡大する計画です。飼料の産直化への取り組みとして、50t規模の保管施設を完成させました。現在の飼料米支援制度は、作るほど経費がかかります。努力が報われる制度としていく必要性を感じています」
○千葉県(パルシステム千葉独自商品「パルシステム千葉のこめ豚」など。北見畜産、サンドファーム旭、千葉県、市原市、パルシステム千葉)
「2010年は利用者3千名に限定していましたが、2011年は9千名の登録をめざします。米生産者としては『人が食べる米を作りたい』というのが本音ですが、農業の魅力を後継世代に伝えるためにも継続したいと考えています。畜産では大規模化した場合の設備などが課題です」
○山形県(「米沢郷のこめ鶏」など。米沢郷牧場、山形コープ豚産直協議会)
「飼料米は2010年に43ha272tを生産し、2011年は75ha450tを計画します。食用とは異なる栽培方法の必要性を感じています。山形コープ豚産直協議会では3月から、地域で収穫されたトウモロコシのサイレージ給餌が始まります」
○茨城県(「コア・フード地鶏しゃも」など。JAやさと、北浦しゃも農場、有機農法ギルド、パルシステム茨城)
「2010年は17haを作付、2011年は25haを計画します。米だけでなく、もみ殻は鶏舎に敷き、稲わらは酪農生産者などで活用しています。パルシステム茨城では独自の交流企画『地産地消応援ツアー』を計画しています」
○福岡県(「薄一郎牛」など。すすき牧場、JAふくおか八女、平田産業など)
「2010年は100ha、580tの飼料米を活用したほか、平田産業で菜種油を圧搾する際に発生する菜種かすを使用しています。近隣地域からは新たに飼料米をやりたいという打診が届いていますが、加工や保管が課題になっています。JAふくおか八女は裏作での大豆生産、平田産業では北海道産の菜種油製造を検討しており、新たな連携も視野に入れています」
○鶏卵(「産直こめたまご」。神奈川中央養鶏農協、トキワ養鶏、JAやさと、花兄園)
「現在は飼料全体の10%に米を配合しています。神奈川中央養鶏農協では、米の産直産地で栽培された飼料米の使用も検討しています」
○牛乳(「いわて奥中山低温殺菌牛乳」など。奥中山高原農協乳業、日本ミルクコミュニティなど)
「飼料の非遺伝子組み換え化に取り組む酪農家7戸は、飼料の自給率が8割に達しています。産地周辺は標高が高く米の飼料化は難しいですが、自給率向上へは継続して取り組んでいきます」
■産直型生協が農商工連携をけん引
続いて、千葉大学大学院の斎藤修教授から「農商工連携と地域の取り組み」について講演がありました。斎藤教授は、国内で実践している複数の流通に関する事例を紹介しながら農商工連携の将来像を解説し「農商工連携を成功させるには、商品の価値を伝えるバリューチェーンと、消費者へ一貫して商品を供給するサプライチェーンを構築することが大切です」と課題を挙げました。
その上で「パルシステムのような産直型生協が実現しやすいはずです」と話し、転作大豆を活用した「うめてば豆腐」をJAささかみなどと開発した「ささかみモデル」や、北東北地域での資源循環で商品化を実現した「日本のこめ豚」などを紹介。「これらのモデルを各地へ広げる必要があります。各地で取り組まれている耕畜連携は関係が複雑なケースもあり、役割分担など課題を整理しながら多様な活動が展開されることを期待します」と話しました。
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