パルシステム連合会が6月21日(火)に農林水産省へ意見を提出したのは「遺伝子組換えセイヨウナタネ、トウモロコシ及びワタの第一種使用等に関する承認に先立っての意見・情報の募集(パブリックコメント)について」です。
栽培が申請された遺伝子組み換え作物は、隔離ほ場での栽培や食用、飼料用の栽培を目的に申請されたナタネ、トウモロコシ(2種)、ワタの4種です。農水省では定められた手続きに基づき生物多様性影響評価が行われました。学識経験者による「生物多様性への影響がある可能性はない」との意見などから、農水省も「生物多様性影響が生ずるおそれはない」と判断しています。
しかしパルシステムでは、管理過程における人為ミス、休眠遺伝子の意図しない発現、人体への影響、周辺の生態系への影響などの理由から、遺伝子組み換え作物の栽培に対して慎重な態度をとるべきと考えています。
東日本大震災と原発事故から、人間の力で自然をコントロールすることの限界を感じました。遺伝子組み換え作物の栽培については議論の積み重ねが必要です。パルシステムでは、震災および原発事故対応による混乱のなかでの申請に対し、承認の凍結と震災、原発事故対策へ全力で当たるよう求めています。
意見の詳細は下記をご覧ください。
2011年6月21日
遺伝子組換えセイヨウナタネ、トウモロコシ及びワタの第一種使用等に関する意見
パルシステム生活協同組合連合会
(東京都新宿区大久保2-2-6)
私たちは生活協同組合として産直産地の生産者とともに環境保全型農業を進め、日本の農業を守り育て、食料自給率の向上を目指しています。消費者が安全性等に不安を抱く遺伝子組み換え作物の導入は、国産食品への信頼を失墜し、日本の農業を衰退させるものと考えます。日本の農業を振興、発展させるべき貴省は、遺伝子組み換え作物の導入に慎重な態度を取るべきです。そのような遺伝子組み換え作物を野外の商業栽培にまで拡げることを私たちは断じて許せません。今回提案されている遺伝子組み換え作物の承認は絶対にしないよう要望します。
人が制御し切れない技術によって大きな災厄がもたらされることを、東電福島第一原発事故によって私たちは今現在経験しているところです。遺伝子組み換え技術も、作出から栽培に至るまでの過程で、人と環境に対して取り返しのつかないリスクを生じうるものと私たちは考えています。これまでのリスクコミュニケーションにおいて、人と環境に対するリスクの説明は私たちの不安を解消するものではありません。推進者が技術の持つリスクを過小評価し、国民に安全を強調してきたところに、遺伝子組み換えと原子力という二つの未完成な技術に相通ずる部分を私たちは感じています。原発事故に学んで、遺伝子組み換え技術への対応を根本的に見直してください。
大震災と原発事故の混乱の中で、日本の農業を左右するこうした提案が淡々となされていることに、私たちは驚きを禁じえません。導入の是非にさまざまな議論のある、こうした案件は全て凍結し、政府一丸となって、震災の復興と原発事故対策に当たっていただくことを強く要望します。
記
(1)遺伝子組み換え作物の使用、栽培の承認をしないでください
遺伝子組み換え作物は、以下に述べる幾つかの点で大きな問題があると私たちは考えます。遺伝子組み換え作物を商業栽培することは、日本の農業に多大な影響をもたらします。本件の承認申請を全て却下してください。
(2)遺伝子組み換え作物の作出のリスクについて
遺伝子組み換えに関わる実験で、安全指針等の規制はあっても、人為的ミスなどによって漏出事故が何度となく起きています。直接の管轄は文部科学省と承知していますが、万が一にも危険な生命体が漏出した場合は、人の健康のみならず、農業生産にも大きな影響を及ぼしうる可能性があります。想定外では済まされません。このことについて、貴省の見解を求めます。
(3)遺伝子の確認について
宿主遺伝子に遺伝子が組み込まれる過程で、宿主遺伝子が傷つけられたり、何らかの変化を受ける可能性が考えられます。大半が休眠遺伝子とされる高等植物の遺伝子のどこかで意図しない発現があったときの予測はつきません。しかし審査報告書を見ると、導入遺伝子が染色体上に存在することが確認されているだけで、導入遺伝子の染色体上の位置も、宿主遺伝子の他の部分が変化していないことも確認されていません。杜撰な安全確認としか言いようがありませんが、このことに関して貴省の見解を求めます。
(4)産生物の確認について
遺伝子組み換え作物の安全性については「実質的同等性」の審査が行なわれています。しかし、実際に確認が行なわれているのは、導入遺伝子の産生物と主要成分の確認だけであり、微量の成分については確認が行なわれていません。(2)で述べた休眠遺伝子の意図しない発現があったときに生成されうる物質により、人や環境に影響が起こることが考えられます。微量で毒性を示す物質は数多くあり、微量であることだけを理由とする無視は許されません。このことに関して貴省の見解を求めます。
(5)人に対する安全性について
遺伝子組み換え作物は食品添加物や農薬のような化学物質などと違い、動物実験による安全性確認が著しく難しいと認識しております。「実質的同等性」の審査により確認されている内容は、動物実験の代わりになるものではありません。そもそも安全性が確認できないものを導入すべきではないと考えますが、最低限、慢性毒性試験及び多世代試験を含む動物実験による安全性試験を実施すべきと考えます。長い食経験のある伝統的作物にも安全性の裏づけがないと言われますが、伝統的食品のリスクは私たちが今受け入れているものであり、新たなリスクを付け加えることについては慎重な審査をすべきと考えます。食の安全に関しては食品安全委員会と厚生労働省が評価・管理していますが、安全な食品を生産するという観点から貴省の見解を求めます。
(6)環境影響について
遺伝子組み換え作物の植物体全体でプロモータ遺伝子により促進されて産生しつづけられる蛋白質や殺虫成分、抗菌成分などが、栽培中または栽培後、昆虫や土壌の微生物・動植物にどのような影響を与えるかという検討・確認は、地域による農地環境の多様性を考慮すれば現実的に困難と考えます。競合、交雑性、導入遺伝子の産生物質の評価だけで済むものでは全くないと考えます。(2)で述べた意図しない産生物質の評価も行なわれていません。土壌微生物などに影響があれば、生態系全体に影響を及ぼすことになります。このことに関して貴省の見解を求めます。
(7)在来栽培品種の汚染について
交雑性に関しては在来野生植物のみの評価になっていて、在来栽培品種との交雑について考慮されていません。シュマイザー事件のような遺伝子裁判、メキシコにおける在来種トウモロコシの遺伝子汚染などを考えれば、在来栽培品種の汚染も大きな問題です。特に有機農業を進める生産者にとって、遺伝子汚染は脅威となります。日本の狭い農地では、隣接する農地への遺伝子汚染が海外より起きやすいといえます。農業を育成する貴省として、このことを看過できないはずです。
(8)日本の農業を守る政策について
残念ながら食料自給率が4割にまで下がり、食の多くを輸入に頼らざるをえないのが現状です。その結果として海外で生産される遺伝子組み換え作物が使われた食品が溢れています。消費者が遺伝子組み換えを選んだ結果ではありません。日本の農業を発展させ、食料自給率を高めていくためには、自給が可能な米の消費を増やしていくことが大切と考えますが、それと同時に安全な食品づくりを目指していくことが重要と考えます。国土の狭い日本で輸入食品と競合して農業生産を発展させるためには、安全・安心な食品作りを進める以外にないと考えます。遺伝子組み換え作物の導入はまさにその反対の道を行くものです。
私たちは今まで貴省が、将来の食料生産の不安への対応等の理由で、遺伝子組み換えを推進してきたことを承知しています。しかし貴省の本来の役割は日本の農業の保護・育成であって、結果的に日本の農業を窮地に追い込むことは貴省の役割に照らして本意でないはずです。今、東日本大震災と原発事故とで、日本の農水畜産業は未曾有の困難に直面しています。貴省が本来の役割に立ち戻り、遺伝子組み換えの推進をやめて、安全・安心な国産食品作りに全力を尽くされることを願ってやみません。
以上