鎌田 實
JIM-NET代表 医師・作家

鎌田 實さんインタビュー

コロナ禍のなかでの「2021年チョコ募金」

イラク、シリア、福島の子どもたちのために

戦争の脅威、放射能の被害に苦しむ子どもたちのために—。
劣化ウラン弾の影響で、がんにかかってしまった子どもたちを支援する団体・JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)の鎌田實代表にお話をうかがいました。

JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)は、湾岸戦争やイラク戦争で使用された劣化ウラン弾などの放射能が原因と考えられている小児がんの子どもたちとその家族への支援を行っています。医療費や薬が足りないために命を落とす子どもたちをひとりでも減らしたい—そんな気持ちで取り組んできました。

「チョコ募金」は、2006年から取り組んでいる冬季限定のキャンペーンです。1口550円の募金をしてくださった方に、お礼として北海道・六花亭のハート型のチョコレートが詰められたチョコ缶をプレゼントしております。缶のふたには、がんや白血病を患ったイラクやシリアの子どもたちが描いた絵がプリントされています。

「チョコ募金」の趣旨に賛同頂き、北海道の六花亭からはチョコレートが原価で提供されており、経費を引いた約310円がイラク、シリア、福島への活動に充てられます。

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CHOCOLATE for PEACE!

みなさまの温かいご支援のお陰で、チョコ募金は今年で16回目を迎えることができました。今回は、4人の女の子たちがイラク、シリアの自然や動物を描いてくれました。
缶のイラストは4種類、ポストカードのイラストは3種類をご用意しております。
(※缶の柄はお選びいただけません。)

今回の缶の絵を描いた少女たちをご紹介いたします。

エリーン・レドヴァン(6歳)

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シリア北部ラース・アル=アイン出身のエリーン。貧しいながらもしあわせな日々をシリアで送っていたエリーンと家族。しかし2018年、シリアで白血病の診断を受けると、イラク国内での治療が必要とされ、家族でイラク・アルビルに暮らすこととなりました。
お父さんはいくつもの仕事を掛け持ちしながら家族を支えており、物価の高いイラクでなんとか生活を送っています。しかし感染症の心配があるためエリーンは通院以外では外に出ることができず、ストレスを感じています。

2020年初め、エリーンは骨髄移植を受けることができました。現在も2週間おきに病院に通い血液検査を受ける必要があり、まだ経過観察が続いています。
今年、エリーンの健康状態に問題がなければ、家族でシリアに帰り、以前の生活を取り戻したいと、お父さんは語っていました。

ザイナブ・ムハンマド・タイーブ(16歳)

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イラク・キルクーク市出身のザイナブは、地元の学校に通い、お母さんのお手伝いをし、手芸が好きな普通の女の子でした。しかし2019年の秋に脚に痛みを覚え、病院で検査を受けます。最初はリウマチとの診断を受け、薬をもらいましたが、痛みがひかないことから再度検査を受けると、白血病と診断を受けました。
JIM-NETハウスにも何度か家族と泊まっていたザイナブ。リサイクルしたものから作る得意の手工芸品を見せてくれて、スタッフを驚かせていました。
治療の毎日に疲れ、髪が抜け落ちたことやコロナ禍で外出ができなくなったことに疲れてしまっています。現在は家にこもりがちになり、寝てスマホをさわるだけの毎日を送っています。

シャグール・サイード(15歳)

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イラク・アルビル県シャウエス出身のシャグール。2018年、皮膚の色が黄色くなっていることに気づき、病院で検査を受けたところ、2019年初めに白血病と診断をされました。現在も病院で治療を受けながら、自宅で療養しています。
絵を描くことが大好きなシャグール。彼女は病院に来る際、いつもJIM-NETハウスに立ち寄ってくれて、院内学級やアクティビティに参加してくれています。彼女は治療を開始して以降、学校に通えていません。また新型コロナによる仕事の激減に加え、日雇い労働者として働いていたお父さんも脳卒中で倒れてしまい、家族の経済状況も悪くなっています。

ディルガシュ・アブドゥルハラク(12歳)

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イラク・アルビル県出身のディルガシュは、学校でも成績優秀な子でした。
2019年、突然体調が悪くなり学校も休みがちになり、歯にも痛みを覚えたことでお父さんが病院に連れて行き、そこでいくつかの検査を受け、白血病の診断を受けました。
彼女の実家が遠かったことから、彼女の入院中、家族はJIM-NETハウスに泊まりながら看病を続けていました。その際、JIM-NETのアクティビティにも参加してくれて、ディルガシュは多くの絵を描いてくれました。この青い花に王冠描かれている絵は、その時の一つです。
「女の子はお花みたいで、お姫さまなんだよ。だからお花にティアラをかぶらせてあげたんだ」と、この絵を描いた時に話していました。絵を描くことや、スマホのゲームで遊ぶことが大好きだったディルガシュ。しかし白血病に打ち勝つことができず、2020年9月3日、天国へと旅立っていきました。

コロナ禍のなかでの募金キャンペーン

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JIM-NETは、皆さまの温かなご支援のおかげで、16回目となる「チョコ募金」を迎えることができました。コロナ禍での募金キャンペーンということで、昨年の14万個から4万個を減らして10万個を目標としました。そのため、募金額も変わりますので、来年の活動内容は状況と照らし合わせていかなくてはなりません。

現在、私たちはイラクにある5つの小児がん病院のサポートや、シリア難民の支援を行っています。2019年5月には、イラク北部のアルビルにあるナナカリ病院の敷地内に、入院している子どもたちが遊んだり勉強したりできる設備や、患者家族が宿泊できる施設も備えている「JIM-NETハウス」をオープンしました。

また2020年11月6日に開催した「戦後75周年+チョコ募金キックオフイベント JUSTPEACE!」は、コロナ禍を鑑み、初めて無観客オンライン配信で開催しました。今回のキックオフイベントのテーマ「JUSTPEACE」のJUSTは、「ちょうど」という意味ではなく、「公正な(justice)」の意味です。平和には、自分とは異なる他者の犠牲の上に成り立つ平和がある。僕たちJIM-NETが目指すのは、そのような限られた平和ではなく、誰も犠牲にしない公正な平和です。

今年のチョコ缶のカラフルな花の絵を描いてくれたシリア難民のエリーン(6歳)は、白血病を患っています。2020年の始めに骨髄移植をすることができたものの、免疫力が低くなっており、新型コロナへの感染のリスクが高いため、通院以外では外出することができず、相当にストレスを感じている様子です。父親はいくつもの仕事を掛け持ちし、何とか家計を支えています。このままエリーンの状態に問題がなければ、今年中にはシリアに戻り、以前の生活を取り戻したいと話していたそうです。エリーンの病状が安定し、家族が無事に故郷に帰ることができるよう、祈っています。

日本人の僕たちからすれば、遠く離れたイラクやシリアのシャグールやエリーンは、まさに自分とはことなる他者でしょう。しかし、僕は彼女たちの平和を目指します。彼女たちが病を克服し、希望を持って夢を叶える。それこそが、僕が目指す公正な平和だから。

鎌田 實

鎌田 實

かまた みのる

JIM-NET代表。医師・作家。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院赴任(現在同名誉医院長)。30代で院長となり、地域医療に取り組む一方、イラク・チェルノブイリ・福島などの医療支援にも力を注ぐ。『がんばらない』、『鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』他著書多数。