――おいしいリンゴのできる村
三水村の名前の由来は、江戸時代にできた三本の用水路です。以来、水が確保され、村の農業は発展してきました。リンゴ栽培が導入されたのは戦中・戦後にかけて。今では全国のリンゴ生産量の1%を生産する、長野県でも有数の産地になっています。
三水村は標高500〜600メートルに位置しているため気温の日較差が大きく、降雨量も年間800〜1000ミリとやや少な目、日照量は多く年間の積算温度もリンゴが育つ上で最適だといいます。加えて土壌も粘土質で、コクのあるおいしいリンゴを栽培する条件がそろった土地柄です。
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朝7時、収穫されたリンゴを積み込んだ大型トラックが出発 |
訪問時は、ちょうど早生種「つがる」の収穫最盛期、朝7時前には集荷場にメンバーが前日に収穫した「つがる」を次々と運び込み、大型トラックで出荷されて行きました。その「つがる」は、この品種にしては実が締まっていてなめらかで、濃い味でした。
「アップルファームさみず」ではリンゴのほか「プルーン」も栽培しており、人気が高いといいます。昨年からは耕作ができなくなった農家の農地を借りて丸ナスと加工用トマトも栽培しています。
昨年、農事組合法人ではなく有限会社という組織を選択したのは「トップの決裁で組織が動き機動的な運営ができることと、農地の荒廃をなんとかしたいため。そうしないとこの地域自体が潰れていってしまう」(山下代表)。リタイヤした人のリンゴ園は「条件の良いところ、いい木がある園地はいいけれど、斜面にある園地などは荒廃している」(山下代表)のが現状です。
――ふたりの後継者の話から
リンゴ栽培は、枝の剪定(せんてい)、受粉と摘花、摘果、無袋のリンゴに日光がよく当たるように葉摘みをして収穫、その他、施肥、除草作業、害虫駆除・病気予防など年間を通じて作業があります。3年ほど前からは自分たちで土壌診断をし、有機肥料のみを施肥、農薬も極力抑えるようにしています。当然、虫食いなどのリスクも大きいものがあります。
後継者のひとり、島田洋一さんは41歳。昨年まで勤めていた会社を退社して就農した農業一年生で、1.5ヘクタールでリンゴと一部ブドウを栽培しています。勤めているときから土、日曜は園地の作業をしていましたが、両親が高齢化したことと、家族との時間をもっと大切にしたいという考えから農業を継ぐ決意をしました。
「消費者が生協組合員になること自体、まず安心安全を選択しているんだと思います。組合員がどういうものを望んでいるか、もっと知りたいですね」といいます。希望は「安定した農業経営。売る側としては少しでも高く、買う側は逆に少しでも安くというのは当然ですが、お互い信頼関係を強固にして接点を作っていくことが大切」と感じています。
山下崇さんは32歳。東京農業大学校を卒業して後継者となりました。借地も含め約2ヘクタールのリンゴ経営です。今はまだ、「栽培技術を習得して、良いものを作ることに手一杯です。できるだけ完熟の状態で届けたいと思っているんですが、流通している間に気温の関係などで柔らかくなってしまうこともあります。クレームを情報として栽培に生かしていくこと、同時に、農業は自然が相手、ということも理解してほしい」といいます。その点でも、生産者と消費者の間に立っている生協に対する期待が大きいようです。
かつては交流に参加した組合員がほかの組合員に知識と理解を広める姿がありましたが、組合員が増えた今、口から口へと伝えることが少なくなっています。急速に増えている組合員に産地の情報をどう伝えていくか、産地の側にとっても、生協にとっても、大きな課題になっていることは間違いなく、充分に伝わっているとはいえないのが現状です。
――“農作業育?”――多彩な若者が集まる
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左から松室智也君、山下崇君、大阪健君、福岡恵子さん、山口ルイス敏光君 |
後継者のほかにも、「アップルファームさみず」は様々な若者を受け入れています。
川崎市出身の福岡恵子さんは近くの農産会社に勤めていましたが昨年退社し、「アップルファームさみず」にやってきました。「私は都会育ちで買う側の立場として食とか健康、環境に関心があり、生産現場を体験したくてきました。1年やってみて、雨が降っても寒くても農作業があり、きつい仕事だと感じています。自然が相手ということ、自然に感謝する気持ちをもつようになりました」。半日は事務局の仕事や各園地の土壌診断、「りんご便り」の制作など広報の仕事、あとの半日はリンゴ園の作業をしています。
山口ルイス敏光君はブラジルから5年ほど前にやってきた25歳の日系二世。有機・減農薬のリンゴ栽培に共鳴、生産や流通、消費者対応を学んでリンゴ園を経営する希望をもっています。空いていた家を借りてひとりで住みながら、社員として働いています。産直について「生産者と消費者の交流を大切にする産直は、人と人とのつながりを大切にする日本の文化ですね」と、的確に見ています。
ほかにふたりの若者が収穫の手伝いにきていました。「安心を提供できる農業をやりたい」と神戸からきている研修生の松室智也君と、広島県の観光リンゴ園の後継者で農業大学校三年生の大阪健(たけし)君です。大阪君は、研修を通じて有機・減農薬、消費者との交流の大切さを実感、「家に帰って生かしていきたい」と希望をもっていました。
それぞれが目的をもち、現場の苦労や生産・農村の現実のなかに新鮮な発見をしていることが印象的でした。今、「食育」がクローズアップされていますが、これは「農作業育」とでもいうのでしょうか。こうした新鮮な“外からの目”が地域を変えていく力にもなっていくという感じを強く受けました。
――生産者の思いが伝わる産直を
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奥さんの和子さんが借りていたグリーンツーリズム(※)用の民家。なかなか立派な家だ
※休日などを利用して、農山村で自然、文化にふれたり、土地の人々と交流を楽しむ、豊かで充実した時間の過ごし方のこと |
最近の産直では、生協が運動体から事業重視へ移っていくなかで、生産物に対するレベルアップが要求されるとともに、低価格が求められるようになっています。
山下代表は、「まだ生協が小さな頃は、割高でもこだわりの価値を理解してもらって進んできた。今は、スーパーを利用してきた人もどんどん生協に入る時代。安全やおいしさより価格が前面に出てきています。生協も事業ですから、当然な面もあるんですが、減農薬で害虫被害などのリスクを抱えて栽培していく上では、納得できないこともあります。消費者に、もっと農家の努力や思いをつなげていってほしい」と語ります。
有限会社を設立して一年、山下代表は、地域を元気にするためにも、仲間を徐々に広げ「有機・減農薬のリンゴを量的にもきちんと確保し、消費者に大量につないでもらうことも大事なこと」と考えています。「組合員に生産者の思いをつないでいく上で生協が苦労しているのはよくわかるけれど、ちゃんとしたものを見合う価格で届けることを大切にしてほしい。それに農法や技術や流通情報などを、流通を担っている視点から提供してもらい、一緒に良いものを作り上げていくのがこれからの方向だと思う」とも。
生協が大きくなってきた原動力のひとつはなんといっても産直。生協と生産者が対等の立場で話し合って進めていくという産直の基本は変わりませんが、生協の規模が急速に拡大したことにともなってそれをどう再構築して生協らしさを持続していくのかが、今、問われています。
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