ホーム > ニュース一覧 > ニュース
ここからメインコンテンツです

高騰する飼料価格が経営を圧迫

埼玉県北部の寄居町男衾(おぶすま)地区で酪農を営む嶋田治彦さん。牛にストレスを与えないように細心の配慮をもって、パルシステムのオリジナル商品『酪農家の牛乳』『酪農家の低脂肪牛乳』のため、菌数の少ない良質な生乳を生産しています。1960年代半ばに30軒あった酪農家が、今では2軒のみという同地区。県全体でも最盛期の10分の1以下の軒数に減っているのだそうです。

「円安で高騰した輸入飼料が経営を圧迫しています」と嶋田さん。自給飼料を増やそうと近隣の畑を借りて飼料用とうもろこしを栽培していた時期もありましたが、手が回りきらず断念した経緯があります。

「酪農家は質のよい生乳を提供しようとプライドをもってがんばっていますが、今の乳価は採算が取れるかどうかのぎりぎりの水準なんです」と語るのは、嶋田さんも所属する埼玉酪農業協同組合組合長・木本栄一さん。「ぜいたくを言っているわけじゃない。せめて、再生産ができ、ある程度人並みの生活ができる収入の保障がなければ、後継者が続きません」と表情を曇らせます。

酪農生産者の嶋田治彦さん(右)と早苗さん

TPPの発効で生産額が2900億円減少?

TPPの大筋合意で、乳製品については、TPP参加国への低関税輸入枠が現行の13万7000tに加え7万t程度拡大する見込み(生乳換算)。関税の撤廃もしくは削減が予定されている乳製品もあります。政府試算(2013年)ではバター、脱脂粉乳、チーズなどの乳製品は、価格が安い輸入品にほぼ全量置き換わるなどにより、牛乳乳製品全体の生産額が2,900億円減少するともいわれています。

東京大学大学院教授・鈴木宣弘さんは、「安価な乳製品が流入すれば、その分、国内の生乳が余り、乳価はさらに下がるでしょう。飼料高騰などですでに約半数の酪農家が赤字経営を余儀なくされていることを考えれば、国内酪農業の存続の危機といっても過言ではありません」と指摘。木本さんも「政府は、規模を拡大して生産コストを削減しろと言いますが、われわれのような都市近郊産地では現実的ではありません。コストダウンももう限界です」と窮状を訴えます。

輸入品にはない「安全」を提供する国産

「TPPで食品の価格が安くなる」と強調する報道も少なくありませんが、「食料に安さだけを追求することは命を削ること」と鈴木さんは断言。乳量を増やすため、日本で禁止されている成長ホルモンを牛に投与している米国の例をあげ、「輸入が増えれば、日本のこれまでの安全基準を逸脱した食品が大量に出回ることになりかねない」と警鐘を鳴らします。

「飼育や生産の方法が不透明な乳製品でいいのか、日本の酪農家がいなくなってしまっていいのか」(木本さん)という言葉をどう受け止めればよいのでしょうか。今、国内の酪農現場は大きな転換点を迎えています。

――2016年2月4回配付「TPPに対抗!国内の酪農生産者を応援」より

今後は、4月に小麦製品を紹介するほか、随時、組合員のみなさんへ呼びかけていく予定です。