■国の制度まで破壊されかねない
90名が参加しました |
TPP(環太平洋連携協定)は、工業製品や農産品、金融サービスなど加盟国の間で取引される品目にかかる関税や制度の格差を完全に撤廃しようとする多国間の協定です。社会の基盤、国の制度までを大きく変える危険性を持っています。農と食をつなぐ産直に長年取り組んできたパルシステムでは、TPPの交渉参加に反対しています。
パルシステム連合会とTPP参加反対をめぐり連携して活動する「TPPに反対する人々の運動」は5月30日(木)、「TPPを考える国民会議」とともに東京・千代田区の連合会館で「TPPをとめる!5.30国際シンポジウム」を開催し、90名が参加しました。
登壇したみなさんの報告は次のとおりです。(敬称略)
○TPP参加は「降伏宣言」になりかねない
ジェーン・ケルシー(ニュージーランド・オークランド大教授)
TPPを推進する人々は、TPPを「21世紀の経済システム」と話していますが、それは食の主権や貧困、雇用、環境、金融の変化といった事象に対応するものではありません。私たちは、TPPに代わる21世紀のあり方を再提起する必要があると考えています。
TPPの最大の問題点は、交渉の非公開をはじめとする秘密主義にあります。たとえば法律をつくるとき、国会が非公開になるでしょうか。とうてい民主主義的とはいえません。交渉への参加を表明した日本政府ですが、現在も条文を知ることができず、これまでの合意事項を覆すことはできません。交渉参加国では「日本が交渉の席に着く前に特別会合で合意してしまおう」という動きもあります。
さらにTPPにより参加国は、環境や健康、雇用などの分野をも「投資の妨げにならない」よう制度を整備しなければなりません。多国籍企業に訴えられた場合は、非公開の仲裁機関で審議されることになり、国内政策を強制する可能性もあります。安倍首相の交渉参加表明は、政治的、経済的な「降伏宣言」となりかねないのです。
○NAFTA加入で家族が離ればなれ
マリカルメン・リャマス・モンテス(メキシコ・労働組合活動家)
メキシコは、1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)に参加してから20年が経とうとしています。協定加入で政府は、低賃金による企業誘致を促進しました。それにより、発効以前は1人4時間の労働力で食料1家族分をまかなえたのですが、現在は3倍の労働力が必要になっています。
自由貿易による安価な穀物の流入は、食料主権も喪失させました。以前は5億8,100万ドルの食料黒字国でしたが、協定発効後7年で21億8,100万ドルの赤字国に転落しました。穀物価格が下落したため農家の収入は激減し、新たな貧困を生んでいます。
農業を続けられなくなった人々が増えたことは、低賃金で働く労働者の増加につながります。仕事を求めて国内外へ移動し、家族は離ればなれとなります。その一部は、米国での不法移民となり、結果的に米国内での雇用悪化を生んでいます。
○国情知らない人が国内法を無効化
キム・ジョンウ(韓国・弁護士)
韓国は米国とFTA(自由貿易協定)を締結し、2012年3月に発効しました。懸念されていたISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)は当初、政府が「発生確率は0%」と公言していたのに、発効から1年待たずに訴えられています。今度は「120%政府が勝つ」と話していますが、信用できません。
ISD条項によれば提訴された場合、ICS(国際紛争解決センター)で審議されます。その国の事情を十分理解していない外国籍の人々で構成されており、国内法による判断が無効化される危険性があります。これは、民主主義への挑戦ではないでしょうか。
○生物多様性と食料主権おびやかす
クォン・ヨングン(韓国・安東大学教授)
TPPには留意すべき点が3つあります。1点目は、米国によっては対中国をにらんだ外交戦略であるということです。次にバイオテクノロジー産業への懸念があります。米国は生物多様性条約には参加しておらず、遺伝子組み換え作物の流入による地域の生態系の影響を考慮すべきです。この分野は知的財産権とのかかわりが深く、農業に関しては関税だけでは不十分です。
最後に挙げるのが、食料主権です。韓国では、コメの自給率が102%から83%へ低下しました。食料主権は、国際人権規約にも定められている権利です。TPPに参加する国には、農村人口が多い東南アジアの国も含まれています。生物多様性を育む場として、食料主権を保つ場として、水田の価値を重視すべきです。
○日本のマスコミ報じないこと残念
バク・ソグン(韓国・韓米FTA阻止汎国民運動本部共同代表)
韓米FTAは、交渉から10カ月という早さで合意しました。これに対して反対運動は、立場を超えた300団体が参加し、15部門、16地域の構成で展開しました。2008年のBSEにかかわる牛肉規制緩和をめぐっては、若い人を中心にキャンドルデモが行われ、100万人が参加しました。雰囲気は和やかで、日本の脱原発デモと似ています。
FTAが発効されてしまったこともあり、現在の運動は小康状態となっています。現在、再び運動を盛り上げる準備を進めています。TPP交渉入りをめぐり日本政府は、数々の条件を鵜呑みしました。この事実は、もっと強調して報じられるべきではないでしょうか。日本のマスコミが扱っていないことが心配です。
■破壊防ぐには人のつながりが大事
まとめとして、TPPに反対する人々の運動の天明伸浩共同代表は「このままでは、グローバリゼーションによって日本の地方も都市も破壊されていくでしょう。これを防ぐには、人々が結びつくことだと感じました」と話し、アピールを提案、採択しました。
アピール全文は以下の通りです。
●アピール(原文まま)
今日2013年5月30日、私たちはこの場に寄り合い、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が人びとの日々の営みに何をもたらすのか、をめぐって話し合いました。メキシコ、韓国、ニュージーランドからのゲストに、日本のコメ作り百姓が加わっての話し合いを通して、私たちはTPPの本質を分かち合うことができました。
NAFTA(北米自由貿易協定)、韓米FTA(韓国米国間自由貿易協定)、TPPと続く新自由主義に基づくグローバリゼーションは、その地に住み、働く大多数の人びとの生存の条件を破壊し、“平和におだやかに生きる権利”を奪います。そこでの主役は、巨大化し、地球規模で動きまわる多国籍資本です。日本企業も他ではありません。
そして、日本政府はいま、そのTPP交渉参加を決定しました。
今日の寄り合いで私たちが得ることができたもっとも大事なことは、”生きる権利”の破壊は国境を越え、圧倒的多数の人びとの上に襲いかかるということです。そうだとすると、TPPに象徴される新自由主義に基づくグローバリゼーションに対抗する運動も、地域に根差しそして国境を越えてつながる大きな渦をつくりださなければなりません。
このことを今日の寄り合いで得た共通の思いとして分かち合いたいと思います。TPPに対抗し、国家を超え、国境をまたぐ人びとの運動の大きな渦をつくりだすために動き出しましょう。
2013年5月30日
「TPPをとめる!5.30国際シンポジウム」参加者一同
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